2023.12.25

2023 Fall / Winter - 総括 -

Column

レイヤリングを重視したラインナップ

INEIVEの最初の秋冬ウエアを作るにあたりどういったラインナップが最適なのか、私たちの話し合いはまずそこから始まりました。暑ければ薄着にしていけばよい春夏シーズンと異なり、秋冬シーズンは気温の変化も体感温度の変化も大きく、ウエアの選択が一層難しくなります。様々な気候条件で最適なウエアを用意しようとすると上着だけでも多種多様なウエアが必要で、少し肌寒さを感じる日には薄手の長袖ジャージが最適、もう少し気温が下がるとその素材は裏起毛へと変化、更に気温の下がる厳冬期には防風性のあるウインタージャケットがあれば快適、と必要なウエア(=作るべきウエア)の種類を挙げればきりがありません。

一方で私たちのような小さなブランドは、限られたリソースをどのように費やしていくかも大きな問題です。どうするのが最善なのか…。少しの悩みはあったものの、ブランドのビジョンを根底に、一点一点の製品に真剣に向き合いたいと思っている私たちにとって、ラインナップを絞り込んでいくという判断は自然な流れでした。最終的に辿り着いたのはレイヤリングを基本にした冬のスタイリング。ウインドジャケットのフィット感を向上させ、レイヤードによって厳冬期用ジャケットに匹敵する性能を持たせたり、長袖ジャージの素材を選ぶ際に中に着こむインナーの種類に配慮したり——。一つのウエアが長いシーズンに渡って着用でき、様々な使い方で年間を通して出番が多くなることを理想としながら、一歩一歩製品を作り上げていきました。

近頃は地球規模の気候変動の影響か、日本に於いても季節の移ろいが平年通りとはいかないことが増えています。今年は特にその影響が顕著で、12月上旬でも半袖でサイクリングが出来る日があるという、これまでに経験したことのない気候。当然こんな日が続くと冬用ウエアの出番もなかなか訪れません。新たなウエアの購入を検討しているサイクリストにとっては、購入のタイミングも、購入するウエアの選択も非常に悩ましい所でしょう。先述の通り、INEIVEの2023年の秋冬ウエアはレイヤリングにより幅広い温度帯をカバーしています。季節の変化が読みにくい昨今において、多様な着回しが出来るウエアは、多くの方にとって、きっと重宝するラインナップになっているはずです。

これまで冬用のウエアは、伸縮性が低く、レイヤリングに不向きな物が多いというのが一般的でした。しかし、INEIVEの冬用ウエアは、先進的なストレッチ性の高い素材を積極的に採用することで、重ね着をしても快適な着心地となっています。また、アイテムを組み合わせる際の、サイズ感の関連性にも気を配りました。例えば、ウインドジャケットのNorth Gale JacketはRoot Woven Jersey(夏用半袖ジャージ)と合わせても、Tempo LS Jersey(冬用長袖ジャージ)と合わせてもフィットする絶妙なサイズ感に落とし込んでいます。乗車姿勢でファスナーがダブつかないよう、いずれのウエアも短めの着丈を採用していますが、North Gale Jacketは最もアウターとして着用することを想定し、下に着たウエアが裾から覗かないよう、ファスナー寸法を僅かに長くするなど細かな調整も心掛けました。

カラー展開については春夏シーズンに引き続きネイビーとグレーを基調に、カーキグリーンやベージュといった季節感のあるカラーを追加しています。どんな組み合わせでも、INEIVEらしい落ち着きがあるスタイリングとなり、きっと既にお持ちの他メーカーのウエアとの相性も悪くない事でしょう。どのアイテムも過度な装飾は施さずにシンプルで着回しが効く事を心掛けましたので、愛着をもって永く接していただけると嬉しく思います。

国内アパレル事情と世界情勢

今回の秋冬シーズンのウエアも、春夏シーズンと同様に日本の縫製工場で作られました。中小規模のブランドにとって、国内の工場は小回りが利き、細かな縫製仕様についてのコミュニケーションも取りやすく、柔軟に対応頂けるのでとても助かるのですが、今年はかなり事情が特殊でした。国際情勢の悪化による輸送費の高騰や、為替の変動などで、多くのアパレルブランドの国内回帰が進み、縫製工場の生産ラインが、例年以上に混み合ったのです。これまで国内の縫製業は、数十年に渡って海外シフトの大きな流れの中にあり、産業の空洞化は明白でした。そこに突然需要が回復したものですから、それらすべてに対応できるはずがありません。特に私たちが扱うサイクリングウエアは、他のスポーツウエアと比べ縫製が複雑で難易度が高いため、対応できる工場は限られます。薄く伸縮性の高い生地はただでさえ縫製が難しいのに、パターンは体に沿って立体的にカッティングされ、サイズ感もタイトなので僅かなズレが着心地に影響します。また、ショーツやタイツにパッドを付ける技術を持った縫製工場もとても重要で、一般的なアパレル製品が縫える工場ならば、どこでも対応できるという訳ではありません。

そんな少ない選択肢の中で、何とか生産ラインを確保し、まず撮影用のサンプルが上がってきたのが11月の上旬のこと。通例では秋冬シーズンの撮影は、まだ木々の緑が濃い間に行われ、ロケーションの選択に悩むのですが、良くも悪くも今年は既に11月。葉も赤く色付き始めており、寒いシーズンのビジュアル撮影としては良い形で撮影ができました。ちなみに今回のビジュアル撮影のモデルを引き受けてくれたのは、TEAM BRIDGESTONE Cyclingの岡本勝哉選手。ルーキーながらJPTでも存在感を発揮した注目選手です。ウエアブランドのモデルは初めての経験ということで、最初は緊張の面持ちでしたが、撮影が進むにつれて次第にリラックスした雰囲気に。しっかりと役割を果たしてくれました。

製品が完成し、ローンチに辿り着くと、時は既に12月上旬。驚くべきことに、その時点でも尚、暖かい日がありました。となるとTempo LS JerseyやTempo Bib Tightsが活躍する気候はまさにこれから。身支度の際には夕刻の向かい風に備えてNorth Gale Jacketをポケット入れておきましょう。2023年も残すところあと僅か。Fog Vestを着るのが楽しみな春に向けて、寒くてもしっかり乗っておきたい所。新しいINEIVEのウエアを身に纏えば、冬のライドも軽快に走り出せるはずです。

text : Kota Shizuhara / INEIVE