2023.06.28

日本のブランドとして

Column

オリンピックレガシーとしてのINEIVE

我が国のスポーツとしての自転車文化を、一歩前に進めたい。自転車に熱い気持ちを持った多くの人がそう思うように、私たちも同じ思いでいました。メジャースポーツとは言えない小さな市場でも、その共感を力に社会を変えていきたい。日本のサイクリングアパレルブランドとして、日本の自転車シーンにこそ貢献したいと。

INEIVEは東京を拠点にウエア作りをしています。2021年7月24日——東京五輪。私たちの目の前を駆け抜けたプロトンは、想像以上の大きな感動をもたらしました。最高のコンディションで来日した夢の様な面子は、メダルを掛けた真剣勝負を繰り広げ、しかも山岳のラインレースでの決戦です。ずらりと隊列を組むチームカーに、沿道の途切れる事のない観客、そして声援。交通規制や機材の運搬などの問題を考えると、開催にはヨーロッパに絶対的な地の利があるこの競技が、これほどの好条件で日本で行われた事は奇跡のような出来事で、ロードレースを知る人ほど胸を打たれた事でしょう。

東京をスタートするコースは、日本独自の美しさを再認識させてくれるものでした。多摩ニュータウンから道志みちを通って、富士山麓へ。INEIVEのローンチビジュアルには、その感動を胸に刻むという意味も込めて、私たちがプロトンを目撃した多摩ニュータウンがロケーションに選ばれました。1964年の東京五輪翌年に都市計画が決定し、高度経済成長による東京への人口流入の受け皿となった多摩ニュータウン。新旧入り交じって立ち並ぶ数えきれない程の集合住宅や、整備された幹線道路、計画的に配置された公園。人々の生活を支えてきたその見慣れた風景も、現代の私達にとってのリアルな「日本らしさ」の一面だと言えるのかもしれません。

日本らしさ

INEIVEの製品を作っていくにあたっては、何が「日本らしさ」なのかは常に意識する部分です。車・カメラ、もちろん自転車のコンポーネント。日本には世界に誇るメーカーが沢山あります。歴史的・文化的な背景もありますが、いずれも海外で生まれたものを日本人の視点で掘り下げ、編集された結果、世界で戦えるブランドになっているように思われます。そしてこの、取り入れる力、掘り下げる力、編集する力こそが最大の「日本らしさ」なのではないか——そんな思いを持っています。

日本社会が欧米の文化や製品に囲まれて成り立っているのは揺るぎない事実です。その中で日本人は長きに亘り、憧れの眼差しをもって海外の事物を取り入れ、現地の人々が気付かない視点で様々なアップデートや加え、時に独自の解釈によって新たな視点を生み出してきました。私たちの文化はそういった、ある種のマニアックさによって形成されていると言えるのかもしれません。

INEIVEではそのような感覚に意識的でいたいと思っています。ヨーロッパを起源を持つサイクリングの文化に敬意を持って自分たちにフィットさせる。そしてそれが逆輸入的に本場に受け入れられるなら、それは興味深い事で、そういうやり方こそが「日本らしさ」なのではないかと。ニュータウンの風景に「日本らしさ」を見出したように、私たちの当たり前の感覚の裏側に、創造力のヒントがあるように思えます。

text : Daisuke Fukai / INEIVE