ミュンヘンへ
2022年11月初旬、コロナ禍の余韻とウクライナ戦争、世界情勢の混乱が落ち着かない中、私はドイツのミュンヘンに向かいました。目的は国際的なスポーツアパレル資材の展示会であるパフォーマンスデイズ。翌年にローンチを控えたINEIVEの製品に用いる資材探しが主な目的です。
まだ以前のような賑わいの無い閑散とした成田空港の出国ロビーを発ち、炎天下のドバイで9時間のトランジット。見上げるのも苦労をする高層ビルと日本の3倍ほどするマクドナルドの高さに驚きました。
クリスマスマーケットが開き始めた初冬のミュンヘンに到着しても物価高の洗礼は続きました。とにかく何を購入するにも高い!事前に分かっていた事ですが、ヨーロッパの物価高と円安の影響を身をもって体感しました。日本のアパレル業界では、コロナ過の世界的な物流の混乱から生産を国内に戻していく傾向がありますが、円安と他国のインフレ状況を鑑みるとこの流れは今後も継続していきそうです。
パフォーマンスデイズの会場はミュンヘン郊外の駅から徒歩10分程度の静かな住宅地。本当にこの場所で国際的な展示会が開催されているのかと不安になりましたが、実際に建物内に入ると世界中から集まった大小様々なメーカーのブースがずらりと立ち並んでいました。
うれしい再会、そして生地探し
ドイツで行われたパフォーマンスデイズですが、ヨーロッパではイタリアに生地や資材メーカーが多く、会場でもやはりイタリアのメーカーが多く出展。私たちもイタリアの各メーカーとは長い付き合いなのですが、コロナ禍によって数年に渡ってメールだけのやりとりとなっていたので、会場では顔馴染みの各担当者と嬉しい再開の連続。実際に生地を手に取りながら様々な情報交換ができました。ちなみにミュンヘンは繊維産業が盛んなイタリア北部(ベローナやベルガモなど)から、アルプス山脈を超えて車で半日程度で来れるため、彼らのようなイタリアからの出展企業にとっても便利な地理とのこと。
顔馴染みの担当者と話していると「世界的なトレンドになっているどこどこのブランドが使っている生地はこれ」とか、「あのブランドはこういう特性の資材を好む」とか、フランクに様々な情報を教えてくれます。あとは、ヨーロッパのサイクリングアパレルの景気とか。普段はメールのやりとりが主なコミュニケーション手段となるので、こういった機会の気持ちの入った会話は嬉しく、また貴重な情報源でもあります。
イタリアメーカーに次いで多いのは実は台湾のメーカーです。自転車の世界では、台湾に大手の自転車メーカーがあったり、欧米の自転車メーカーの生産の一手を担っているのは周知の事実ですが、スポーツ・アウトドア向けのテキスタイルの世界でもその規模は大きく、メジャーなメーカー・ブランドに生地を供給しているテキスタイルメーカーが沢山あります。イタリアのメーカーと比較すると先進的な生地は少な目ですが、品質は良く、私たちも目的に応じて使い分けています。日本の九州程度の大きさの島国から、グローバルにビジネスを展開していく彼らの姿は非常にパワフル。その行動力と発信力に刺激を受けます。
収穫
INEIVEで最初のジャージ”Root Woven Jersey”に布帛生地を使いたいというのは出発前から決めていたことでした。日本でもストレッチ性のある布帛は流通しているのですが、競技に使える程の性能を持ったものというと、なかなか出会えません。会場では幸運にも数社の布帛を取り扱うメーカーとコンタクトに成功。すぐにコミュニケーションを図りました。彼らが持つライブラリーは私の想像よりもはるかに多様で驚かされましたが、その中から何とか候補の生地を選定。生地見本も日本に送ってもらえる事になりました。その他にもこのパフォーマンスデイズで出会ったいくつかの生地や資材は、試作やテストを経てINEIVEの製品に採用されています。
飛行機のチケットも物凄く高い時期だったので「良い出会いがなかったらどうしよう」とドキドキしながら出発したパフォーマンスデイズ。結果的には取引面でも情報収集の面でも非常に収穫の多い展示会で、日本に戻ってからの製品開発を楽しみにしつつ、ミュンヘンのクリスマスマーケットを少しだけ覗いて帰国の途についたのでした。
text : Kota Shizuhara / INEIVE