2023.06.22

チームブリヂストンサイクリングとともに

Column

はじまりは2009年

僕らが母体とするWAVE ONEでは2009年からウエアサプライヤーとしてサポートを続けているTEAM BRIDGESTONE Cycling。僕が初めて担当させてもらったのは2016年のことなのでもう8年目のお付き合いとなります。過去に多数の名選手を輩出してきた日本を代表するチームですが、近年はトラック競技においてオリンピックや国際大会でメダルを獲ることを目標とし、ロードレースを走る全ての選手がトラック競技を兼任。国際舞台で輝かしい成績を残しています。

長くチームを担当していると、年々選手やチームからのフィードバックが得やすくなってくるのを感じます。プロチームですので、移籍や引退に伴って選手の構成は年ごとに少しずつ異なりますが、継続して所属する選手はコミュニケーションを重ねるごとにリラックスして様々な話をしてくれるようになります。本音が聞けるという意味で、これは僕たちにとって凄く有難いことです。

フィードバックは供給する自社のウエアの話に留まりません。終えたばかりのレースの感触は勿論、他国や他チームの動向、マテリアルやレギュレーションについての話など話題は多岐に渡ります。特に日本ナショナルチームとしての活動が多い彼らは、海外での国際レースの経験が多く、オリンピックのメダル争いに迫る競技レベルで走っていますので、言葉の端々に見え隠れする内に秘めた熱量は大変なもので、僕たちも大きな刺激を受けることとなります。

トラック競技は難しい

TEAM BRIDGESTONE Cyclingの選手たちのようにトラックの中長距離の選手が、ロード競技を兼任することがあります。特に近年は高いスピード域を維持できる選手の育成に向けて世界的にその傾向が強くなっており、ロードの世界から見てもその注目度は高いものです。

日本ではバンクを走るトラック競技といえばケイリンを初めとする短距離種目を思い浮かべる事が多いと思います。競技時間が短く勝敗もはっきりしているので、ルールが解らなくても観戦しやすいレースです。しかし先述の中長距離種目の中には、マディソンやオムニアムなど見る者を混乱に陥れる種目が存在します。選手同士がバンク内を追い抜き追い越されながら、ポイントの加算形式で競技が進行するので、見る者の視点が定まらないのです。これが実に難しい…。欧州を起源とするロードレースの理解が日本語の解説に下支えされてきたように、トラック競技にも日本語の解説が待たれます。

それでも、実際に競技場で観戦するとロードレースとはまた違った感動があります。オリンピックなどが開催できる国際規格の木製バンクは一周250mとコンパクトで、すり鉢状のカーブはまさに壁。この壁を選手が張り付くように高速で走り抜ける姿や、ディスクホイールと木製の路面が織りなすサウンドは、インターネットの中継では感じられないものです。

ビジョンの合致

日本では一般の人が楽しむ「スポーツライド」も、TEAM BRIDGESTONE Cyclingのようなプロチームが活躍する「自転車競技」もまだまだ市民権を得ているとは言えません。INEIVEでは製品やブランドの活動を通じて、その双方の社会的ステータスを相乗的に向上させていくことをビジョンとして掲げています。

例えばレクリエーションとしてのスポーツライドが、もっと日本国内で当たり前のスタイルとなるとすれば、そのきっかけの奥深い部分で、世界レベルでの日本人選手の活躍が不可欠だと考えています。メディアに取り上げられたその活躍は、注目度が高いほど媒体の規模も大きくなり、幅広く社会にインパクトを与えることは想像に容易いでしょう。それでも場合によってはスポーツライドを楽しむ本人たちが、その活躍や存在を知らないということも起こり得ると思います(反対に、活躍は知っているけど自転車に乗るまでには至らないという人々が大多数でしょう)。しかし、人々の潜在意識の中に薄っすらとでもスポーツバイクの存在が根付き、回りまわって自転車文化が活性していくのであれば充分に意味のあることだと思えます。

そういう意味ではオリンピックでのメダル獲得を目標に掲げるチームをサポートし、勝利を目指して共に戦って行くということは、僕たちにとっては大変意味のあることです。もちろんINEIVEのユーザーには競技を見ることに興味を持ってもらいたいと思っていますし、レースの素晴らしさも共有していきたいと考えています。そうすれば今度は魅力的な製品と、ブランドを愛してくれるユーザーによって、競技シーンを後押ししていく事も充分に可能でしょう。「双方の社会的ステータスを相乗的に向上させていく」というビジョンは、噛み砕いて言うとこういった事を狙っています。

またレースシーンにおいて、マテリアルの性能が勝利や記録に大きな影響を及ぼす事が常識となった昨今、ウエアもその役割の重要な一端を担うこととなりました。INEIVEではウエアメーカーとしてスタイリッシュな製品をリリースするだけでなく、レースでの勝利と記録の向上に向けて先進的な製品の開発を行い、自転車競技界へ貢献していくことも目標に置いています。TEAM BRIDGESTONE Cyclingのトラックチームに向けて製品を供給していくことは、これまで以上にやりがいのある仕事になると考えています。

すごい活躍なのです

ロードと比較すると活躍が取り上げられる事が少ないトラック競技ですが、近年のTEAM BRIDGESTONE Cyclingの活躍を目の当たりにすれば紹介せずにはいられません。特筆すべきはやはり、窪木一茂選手(@kazushige_kuboki)と今村駿介選手(@shunimamura)ペアによるマディソン種目での活躍でしょう。

まず前提として、マディソンを走る選手はロードの世界最高峰のチームで活躍する選手が多数含まれています。中でもフランスのベンジャミン・トマ(Cofidis)はロードとトラックを兼任する選手の代表格の一人と言えるでしょう。彼はワールドツアーのロードレースでも存在感を発揮できる選手で、ロードレースの実況で名前を聞いた事がある方も多いのではないでしょうか。マディソンを含むトラック競技の中長距離種目では何度も世界チャンピオンに輝いており、今後の更なる活躍が期待される選手です。またマディソンといえば過去には、ブラッドリー・ウィギンスとマーク・カヴェンディッシュがペアを組んでいた事でも有名。年代は違えど、TEAM BRIDGESTONE Cyclingの選手はそのような舞台で戦っています。

窪木選手×今村選手ペアにとって大きな飛躍となったのは、2022年のトラックネイションズカップ(旧ワールドカップ)第1戦の銀メダルでした。優勝したのは先述のベンジャミン・トマを擁するフランス(63ポイント)。そこから僅か3ポイント差の2位で終えたのが窪木×今村ペアでした。(レースレポートはMoreCadenceさんの記事を是非ご一読ください)3位にはコンソンニ(Cofidis)を含むイタリア、4位にはオリベイラ(UAE Team Emirates)を含むポルトガルと、ワールドチームに所属する選手が名を連ねます。ワールドカップの時代を含め日本チームが同大会でメダルを獲得したのは史上初。レース後に優勝インタビューを受けたフランスチームが、日本チームの活躍に言及したことも印象的でした。

同ペアは、その後も安定した成績を残すことになります。ネイションズカップ第2戦で6位、アジア選手権-優勝、世界選手権7位と上位リザルトが定位置に。2023年に入っても、ネイションズカップ第1戦で8位(橋本選手×兒島選手は5位!)、第2戦10位、第3戦5位、アジア選手権-優勝と好成績を維持しています。そして8月にはいよいよ世界選手権に出場。2024年のパリ五輪に向けて緊迫感の高いレースとなることは間違いないでしょう。

この機会ではマディソンに限って活躍を紹介しましたが、TEAM BRIDGESTONE Cyclingではパーシュートやオムニアムなど、中長距離種目全体でのレベルアップが図られており、他にも注目すべき選手がずらりと並びます。また忘れてはならない短距離種目。競輪とナショナルチームでの活動を両立する選手が多く、こちらもパリ五輪に向け目が離せません。

text : Daisuke Fukai / INEIVE