2025.01.24

人 - H.Fukuda ( CYCLO )

Interview

千葉県流山市の、走るドーナツ屋さん

関東圏のサイクングシーンにおいてライドの目的地となることも多い、千葉県は流山市のドーナツ店「CYCLO」さん。サイクリストのみならず、地域の人々からも愛される健康的で美味しい(そして可愛い!)ドーナツを、ご夫婦で提供されています。年の瀬も迫った2024年12月某日、最近ではINEIVEのロケ撮影でモデルも務めてくれた店主の福田博さんに、お店の事や自転車の事、そしてINEIVEとの関わりについて、店内でじっくりとお話を伺いました。

福田 博 - Hiroshi Fukuda -
CYCLO Owner
2020年、千葉県流山市にドーナツ店「CYCLO」をオープン。サイクリストはもちろん、地域の人々からも愛されるヘルシーなドーナツを日々作り続けている。自らもサイクリストで、数々のイベントでライドリーダーを務めるなど走りにも重点を置く。
[ Website ] 496donuts.theshop.jp
[ Instagram ] @496cyclo / @496donuts_boy

CYCLO Donuts

──では、まずお店の紹介を。

福田:千葉県の流山市で「CYCLO(シクロ)」というドーナツ店をやっています。オーナーの福田です。僕が流山市の出身なので、地元を盛り上げたいっていうのが一番にあって、それでこの場所でお店を始めました。2020年の事ですね。妻と僕の二人でスタートしました。

ドーナツは、僕も自転車に乗るので、スポーツする人も抵抗なく食べられるような、ヘルシーなものを作っています。ドーナツってすごくカジュアルなお菓子ですけど、でもいい素材をふんだんに使って、ビーガンだったり、グルテンフリーだったりとか、いわゆるジャンクなイメージとは対照的なものを作っています。ビジュアルとかも可愛くして、皆さんに親しんでもらえたら嬉しいなと。

──健康志向というのは重要なキーワードですね。

福田:フィットネスとかウェルネスとかっていう言葉や考え方って、これからもっと当たり前になっていくのかなと思っています。今まではどちらかというと「意識高い系」みたいなワードで敬遠されることもあったかもしれないけど、これからはもっと自然に使われていくだろうし、そうあるべきだなと。例えば運動っていう言葉一つとっても今までは「筋トレ」に代表されるような《身体の鍛錬》のイメージが強かったと思うけど、今は自転車もそうですけど《マインドの発散》を目的に取り組んでいる人も多いですよね。だからこのお店は、生活の中で気持ちを落ち着かせてもらえるカフェという「場所」を提供したいっていうのもありました。

──店名は「CYCLO」ですが、まずは自転車をベースにしたコンセプトがあった感じですか?

福田:レースに出る時に堂々とお店を休みにしたくて…、街の人に自転車乗りであることをアピールしている店名です。あんまり伝わってないですけど(笑)。

って言うのは半分冗談ですけど、結局カフェという業態をやっていく中で、飲食だけにこだわりたくなくて…。実は僕は土着したくないんですよ。店を構えて場所を作りたいけど、その土地に縛られたくないって思いも強くて。飲食と何かを掛け合わせる必要があった。そこで、レースやイベント会場での販売ができる「ドーナツ×自転車」という組み合わせは上手くフィットしたと思います。飲食店ってどうしても待って集客することになるんだけど、お店をベースにコミュニティを作ったり、自分が何か表現したり、能動的に動ける要素を持っておきたかったんですよね。

──最近は自転車以外の切り口でのイベントも活発ですね。

福田:例えば夜の時間帯に、着物のイベントとか、DJイベントとか。何か表現したい人たちが、集まって来ている印象はありますね。そういうのを形にできるのは、オフラインでフィジカルに繋がれる、このCYCLOという場所があるからこそだなと思います。やっぱり僕自身が表現したい、外に向けて発信したい人なので、そういう志が高くてウマの合う人と一緒にやってる感じです。

──Raphaのライドリーダーであったり、各ブランドのポップアップストアであったり、色々と外部のメーカーさんとの取り組みも多いですよね。メーカーから見ると、このお店が魅力的なのはもちろん、福田さんのソーシャルメディアの使い方であったり、見せ方の上手さみたいなのを感じて選ばれていると思いますし、逆に福田さんがCYCLOとして一緒に取り組むのが適しているかどうか、メーカーさんの方を選ばれていることもあるかと思います。そういった活動の中で、昨今のサイクリングシーンにおけるCYCLOさんの独自性であるとか、役割みたいなものって、何か意識していたり感じられたりしていますか?

福田:最近になって、自分たちに個性とか役割みたいなのがあるんだなっていうのに凄く気づきました。今までは割とポップアップとかやらないで、自分たちのドーナツ一本でやってきたんですが、2024年は頻繁に取り組んだ感じですね。というのも、もちろん僕たちが好きな製品しかポップアップはやらないんですけど、そういうブランドとかメーカーが何を考えて、どういう思考プロセスでプロダクトを作っていて、更にはどういう風に売りたいかとか、見せたいかとか、そういうのにもっと触れたいなと思っていて。どちらかというと販売したいっていうよりは、そのブランドの世界観に触れたいって純粋な気持ちですかね。それは僕たちCYCLOにとっても、ブランディングとかマーケティングの刺激になるので。

サイクリングシーンの中での役割っていうのも、正直まだはっきりと言葉にはできていないんですけど…、たぶん、いわゆる自転車屋さんでないドーナツ屋の僕が、CYCLOの看板背負いつつ、実際に製品に触れながら走れるっていうのは客観的に見て面白いのかなと。あとアパレルに関連して言うと、やっぱりいいスーツ着て、いいネクタイ締めて、ちょっといい眼鏡をかけて、髪の毛をパリッとセットして行く──なんかそういう紳士的なスタイルみたいなのも、サイクリングライフの中で僕らは生み出したくて。そういったことを自分でも体現していかないと、なかなかサイクリストの印象って格好よくなっていかないのかなぁ…とかは思っていますね。

この日はALBA OPTICSのPOP UP期間中だった

──そういうのは日々の発信にも表れていますね。メーカーさんもそういうのを見て「ここならウチの世界観がしっかり伝わるかも」という感じのニュアンスを汲み取っているんじゃないかな。実際、例えばポップアップ中に特定の製品をピックアップしてソーシャルに投稿する場合でも、ユーザー層には、いわゆる従来の自転車店による発信とは、かなり違う印象で情報が届いていると思います。

福田:そうかもしれません。でもそれは単純に業態の違いもあると思います。先ほども言いましたけど、ポップアップによる販売がしたいというよりも、その世界観に触れつつ、CYCLOのフィルターを通した表現がしたいという気持ちも強いです。で、それに共感してくれる人が集まって、結果的に販売という形に繋がっているのだと思います。僕は、いいと思ったものを取り入れて、走って表現して、パフォーマンスして、っていう。

──選ばれているメーカーも、独自の考えで何か目的を持って、プロダクトに落とし込んでいるような、そういったメーカーやブランドさんが多いですよね。

福田:細かいディテールに拘っていたりね。極端な話、他と比較して機能が少々劣っていても良いと思うんですよ。ただ、そこにクリエイティブの本質というか、作り手のこだわりとか、気持ちみたいなものを感じられるとプッシュしたくなります。逆に「どこかで見た何か」みたいなのは受け入れられなかったりするし…。やっぱり何か新しいことにトライしていたり、ワンアンドオンリーな世界観だったりで、リスペクトできるブランドを選んでいます。

──ポップアップの有無に関わらず、CYCLOさんを目掛けて来てくれるお客さんも多のではないですか?

福田:はい。神奈川からとかも普通に来てくれますね。──今年、2024年はライドイベントとかも強化したんですけど、やっぱり何か体験できるイベントがあるのは良いなと感じています。去年はずっと厨房に入ってSNS頑張ったりだったんですけど、今年はかなり強めに自転車に乗るようにしました。そうするとお客さんとの繋がりはどうしても強くなりますね。まぁ、そんなにでもないですけど、やっぱりしっかりかっちり走れると、サイクリストとしての信頼も得られますし。

あと最近思うのはパフォーマンスできる人、表現できる人って意外といないんだなと。自分たちはモノを作るところから、売るところまでワンストップで全部できるところが強みですかね。僕の中ではそこまでできて、クリエイティブと言えるんだと思います。もちろんビジネス規模が小さくて、小回りが効くからこそのことではありますけど。

──でもこれからは、そういう時代かなと思います。趣味嗜好もどんどん細分化されてくるし、誰から物を買うかとか、誰と価値観を共有したいか、とかっていうのが凄く重要になってくる時代。インディペンデントな体制でしっかり価値観をコントロール出来ている方が、お客さんと意思疎通がしやすい。

福田:本当にそう思います。

INEIVEとの出会い

──僕たちは2023年にブランドを立ち上げて、同時にInstagramでの発信もスタートさせた訳ですが、本当に初期のフォロワー数十人の頃から、CYCLOさんがフォローしてくれているのは気付いていました。逆にそれまでは、僕はCYCLOさん自体の事は存じ上げてなくて、フォローしていただいて知った感じです。ただ投稿を見ていると凄く素敵なお店で、ずっと気に掛かっていました。その後、どこかのイベントにINEIVEで出店した際に、CYCLOさんの常連さんが、オリジナルのキャップをかぶって僕たちのウエアを見にきてくれたんですよね。そこでお店のことも伺って「是非一度店長にも会いに行ってみてください」と言ってもらいました。それでコンタクト取らせてもらって、別にすぐに要件も無かったんですが(笑)、遊びに来させてもらったというのが最初の繋がりですね。で、色々お話しさせてもらう中で、共感というか、共有できるニュアンスが多くて仲良くなった感じです。そして今回初めて、ロケ撮影のモデルにもお声掛けさせていただいた。既に普段から色々とお話しさせていただいていますが、改めてINEIVEの印象についてお聞かせいただけますか。

福田:それこそさっきの話じゃないですけど、売ろう売ろうとか、デザイン性とかも受け入れられる方向に近づけるブランドが多い中で、自分たちのスタンスを「受け入れろ」っていう、強い球を投げてるブランドだなって思います。なかなかそれって勇気がいるし、できない事だと思います。 そこがいいなって。一番は何よりもそれ…マインドです。あとは国産のブランドで、シャープでミニマルなデザインで、それを上手くまとめる力があるブランドって言うのは他にないですよね。ラインナップにしても、これはまだまだ過渡期なのかもしれないけど、必要なものは揃ってる。 とういか、必要なものしかないのかも。むしろ必要なものを尖らせていくっていう思考プロセスなのかな、INEIVE的には。 でも走りを追求した上の物事の本質って言うのは、そういうシンプルな方向に要素を削ぎ落としていく作業だとも思うし。実際にグローブ(Long Cuff Gloves)とか使ってても凄く良いし、誰にでも合うものでもないけど、すごくフィットする人、必要としている人は必ずいるっていう印象ですね。INEIVEは決して媚を売らない志の強いブランドであると思うから、万人受けはしないだろうけど、逆にそこが強みに感じます。

──僕としてもニーズに迎合していくよりも、ニーズを作っていくという気持ちが強いです。色々な視点から日本のサイクリングシーンをもっと成熟させて行きたいと思っているし、アパレルブランドとして、その一端を担っていくことも不可能なことではないんじゃないかなと。こうしてCYCLOさんに来て、同じような事を考えてそうな人と繋がったり、それこそ日本独自のサイクリングコミュニティというか、僕らなりの自転車を介した楽しい部分を発信していければ良いなと思っています。

福田:ウエアのデザインとかも、かなり淡白ですけど、作りとかカッティングに情熱を感じますね。素材感とかも。実際、走りに重点を置いたウエア。そのほかのビジュアルも含めてブランドイメージはドライに見えるんだけど、実はパッションに溢れているっていう。正にFAR EAST CYCLING AMBITION。このコピーも良いですね。深井さんに会う前から色々な発信を見ていて、INEIVEの中の人は、たぶん表現力のある人なんだろうなと感じていました。だから実際に会って話してみて違和感がなかったことに、全然驚かなかった。

──それはお互い様ですけどね(笑)。

お気に入りのINEIVE

──では、お気に入りのアイテムをピックアップしてもらうと?

福田:僕的には Long Cuff GlovesTempo Bib Tights です。本当は僕は素手派なのでグローブは付けたくないんだけど、やっぱりレースのレギュレーションで必要になることがあるので。でもLong Cuff Glovesは付けてしまえば本当に素肌に近い。縫い目も少ないし、パッドも入ってないからハンドルのダイレクト感もあって。すごい好きです。手首部分が長いのもスタイリッシュで気に入っています。

Long Cuff Gloves

福田:Tempo Bib Tightsはとにかく柔らかくて、履き心地が凄く気に入っています。あとはちょうど良い温度感ですね。タイツも意外と選択が難しくて、薄すぎたり、逆に真冬用は防風素材でゴワゴワしていたり…。でもTempo Bib Tightsは絶妙な感じで温度帯の守備範囲が広いんですよね。長い期間使えるので重宝しています。

Tempo Bib Tights

今後の展望

──最後にCYCLOさんとしての、今後の予定や展望などはいかがでしょうか?

福田:僕たちもCYCLOをオープンして、もう4年になります。お店を中心としたコミュニティも出来てきて、認知度も上がってきて…。さっきも話題に上がりましたが、僕たちにも、役割とか必要とされている事があるんだなというのを、凄く感じています。それこそ色々な人から相談されたりね。そういう流れを受けて、僕が持っているコミュニティとか表現する力とかは、もうちょっと自信を持ってやっていってもいいのかなと思っています。今までは探り探りで「僕なんかが申し訳ないですけど…」って感じだったんですけど、でも今後は周りにいる仲間のためにも、僕が前に出て牽引したい──ロードレース的に言うとリードアウトする番かなと。 なので今持ってる財産とか、仲間とか、デザイン性とか、全部ひっくるめて自分の力を信じて前に出ていきたいと思っています。

──いいですね。僕も普段から福田さんとお話しさせてもらう中で、たくさんの刺激を頂いています。また一緒に何か面白い取り組みができるよう、お互いに頑張っていきましょう。本日はお忙しい中、お時間ありがとうございました。

interview and text : Daisuke Fukai / INEIVE